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花巻の雉ボイの話
投稿者:ふるさと 遺産研究所
カテゴリー: 風習
 雉ボイ(雉追い)の話を開きました。みなさんの所では、雉はどんな風にして追いかけますか。花巻の「雉ボイ」はゆかいなんです。 
 花巻の西側は田園が遠くまで続いています。小高い丘から眺めると 小さな島のように、ぼしゃぼしゃ杉林に囲まれた家が点々としております。家の周りの林はこの辺では「イグネ」と言って、雪や風よけのためにあり、家を建て替える時には挽いて木材にもします。杉の葉は風呂やストーブの焚きつけに使っていました。
 冬、森や田園がすっかり雪におおわれた小正月の頃、彼はみんなを集めます。前の日から計画していましたので、空はすっかり晴れ、十五人ほどの村のこどもや大人が集まってきます。ほど、というのは小さい子供ははずされてしまうからです。こどもは毛糸の帽子や耳あてをして、大人のひとは手拭でほおかむりして、それぞれ縄で長靴をしばったりゲートルを巻いたり、雪をこいで歩く準備をしています。
 雉は冬になると、農家の脇に盛り上げた籾がらを食べに来ます。雉はけつして雪の上には止まらないのです。林の薮や「イグネ」の 中に隠れています。その雉をみんなで手分けをして追い立てるわけ です。ふたりか三人の組になり、黒くこんもり点在する林にそれぞれ配置されます。彼も、少しどかどかしながら雪の中をこいで、持ち場となった林で雉が飛んでくるのを待ち構えています。
  遠くの林の方で喚声が上がると、「雉ボイ」の始まりです。雉は、ばたばた低く飛んで、次の林を日指して逃げて行きます。雪を跳ねる黒い影を振り切ってへこへこして林に降りようとしましたが、その林中から喚声と一緒に両腕をふり上げた子僕達が飛び出し、雉はまた追い立てられます。
 びっくりして、雉は、戻るか行くかとまどって二回ほど、ばたば た低く輪をかいてあわてて、次の林に逃げて行きます。けれどもここでもまた雪玉を投げられたり脅かされて追い立てられます。
 いよいよ雉は、彼が構えて潜んでいる林に向かって、もがきながら飛んで来ました。もう、雉も必死です。なにがなんだかわからず必死です。彼と友達は普段出せないような声を張り上げ、雪の上を転がるように追い立てます。雉はもう目より少し高いところでばたばた飛んでいます。突然、壁に突き当たったようにぴたっと雉は空中で止まり、それから勢いよく雪の中に突き刺さりまりた。近づいて見ると頭から半分雪に潜って雉は、へこへこ息をしています。
 彼の話によると、雉が飛ぶときは息を止めて飛ぶそうです。だか ら、林に逃げ込もうとしても、追い立てられるので、飛びっばなし でとうとう息が苦しくなって、突刺さるようにして雪に逃げ込んだ のです。それから彼は、雉を頭の方から着ていたジャンパーをかぶ せて捕まえます。なぜ、頭かというと雉は頭の方にしか飛べないので、 後ろからだと逃げられてしまうからです。みんなは林から出てきて集まりました。
 それからが、にぎやかなんです。お母さんやおばあちやん、それ に小さな子供達が集まり、捕まえた雉を雉餅にしたり雉汁にしてみ んなでわいわい騒いで食べるのです。
 夕方、彼は、雉の羽を帽子につけて帰って行きます。あたりはも う、青黒い銀色のもに包まれ、山の向こうの空が火事のようにもえています。急に風がでてきて、さっきの林がざわざわとゆすれました。 彼はいきなり、山に向かって「わーつ」と叫びました。それから自分の家の灯をめざして、明日の遊びを考えながらぼこぼこ帰っ
て行きます。小屋の横でちらばった雉の羽毛が風でくるりと動き薄ぐらい雪の上でやわらかな胸毛がふうーと息をしたようです。
 私は、このはなしを観光課で課長補佐になった佐々木さんから聞きました。近くにいた人も、うなずいて、相づちをはさむので、ほんとうに花巻では最近までおこなわれていたことなのです。この話はとてもイーハトーブらしくて、妙に楽しくなります。


昭和55年7月
ふるさと遺産研究所 所長 鹿川 博司
最終更新日: 2019年05月13日
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